一人で抱え込んだ困難。心の声が指し示した、新たな事業の方向性
期待と現実の狭間で感じた孤独
私が経営する小さな会社は、立ち上げ当初こそ意欲に燃え、がむしゃらに突き進んでおりました。しかし、事業が軌道に乗り始め、ある程度の規模になった頃、それまで感じたことのない孤独感に襲われるようになったのです。周りからは順調に見えていたかもしれません。ですが、経営に関する最終決定は常に自分一人。相談できる相手はいても、この重圧や不安を心の底から分かち合える人はいないと感じていました。
特に、過去に事業で大きな失敗を経験していた私にとって、次に同じ過ちを繰り返せないというプレッシャーは想像以上に重くのしかかっていました。夜中に一人で考え込み、過去の失敗の光景がフラッシュバックすることもありました。あの時の、資金繰りに追われ、誰にも頼れず、全てが終わったと感じた絶望感や無力感が、ふとした瞬間に蘇ってくるのです。順調に見える今でさえ、いつまた足元をすくわれるか分からないという漠然とした不安が常に心の片隅にありました。
沈黙の中で深まった内省
孤独は私の心を閉ざし、周囲との関わりを避けるようにもなりました。社員や取引先との会話も表層的なものになりがちで、自分の本音を話すことが怖くなっていたのかもしれません。このままではいけないと感じながらも、どうすれば良いのか分からず、ただ時間だけが過ぎていきました。
そんなある時、ふと立ち寄った本屋で一冊の本が目に留まりました。それは、著名な経営者が自身の孤独や葛藤について語ったエッセイでした。その本を読み進めるうちに、自分だけがこのような孤独を感じているのではないのだと、少しだけ心が軽くなるのを感じました。そして、その経営者が「孤独な時間こそ、自分自身と向き合う貴重な機会だった」と書いている一節に強く惹きつけられました。
それから、私は意識的に「一人の時間」を持つようにしました。それは孤独に苛まれる時間ではなく、自分自身の心と向き合うための時間です。静かな場所で、自分の感情、考え、そして本当に大切にしたいことは何かを問い直しました。事業のこと、人間関係のこと、そして過去の経験について、ノートに書き出してみたりもしました。
心の声が指し示した新たな道
内省を深める中で、私はある重要なことに気づきました。過去の失敗やトラウマに縛られ、再度の失敗を恐れるあまり、挑戦することを避けていたこと。そして、周囲からの期待に応えようとするあまり、自分が本当にやりたいこと、事業を通して実現したいことから目を逸らしていたこと。
私の心の奥底には、「誰かの役に立ちたい」「過去の経験を活かして、同じような困難に直面している人を支えたい」という強い願いがあることを、再確認しました。それは漠然としたものでしたが、孤独の中で自分と向き合ったからこそ聞こえてきた「心の声」でした。
この気づきは、私の事業に対する考え方を大きく変えました。単に利益を追求するだけでなく、社会にどのような価値を提供できるのか、顧客や従業員とどのように向き合いたいのか、といった本質的な問いに対する答えが見え始めたのです。過去の失敗も、誰かの役に立つための学びとして捉え直すことができるようになりました。
過去を力に、未来へ
現在、私は事業の方向性を少しずつ転換させています。過去の経験で得た知識や教訓を活かし、同じような課題を抱える個人事業主や中小企業向けのコンサルティング事業を立ち上げる準備を進めています。これは、以前なら失敗を恐れて挑戦できなかった分野です。
孤独や過去のトラウマが完全に消えたわけではありませんが、それらと向き合い、そこから学びを得ることで、以前よりもずっと強く、そして自分らしくいられるようになったと感じています。心の声に耳を傾け、過去の経験を力に変えることができたのは、あの内省の時間があったからこそです。
同じように、一人で困難を抱え込み、孤独を感じている方もいらっしゃるかもしれません。すぐに解決策が見つからなくても、まずは自分自身の心に静かに耳を傾けてみてください。きっと、あなたの中に眠る「心の声」が、進むべき道を優しく教えてくれるはずです。過去の経験は決して無駄にはなりません。それを力に変え、「再生の物語」を歩んでいくことができると信じています。