長年のプレッシャーで心身を壊した日々。自分を労わることを覚え、事業と人生を再生した軌跡。
終わりの見えないトンネルの中で
私は、自営業として長年、仕事に打ち込んできました。常に最高の成果を出さなければならないというプレッシャー、周囲からの期待、そして何より自分自身に課していた「完璧でなければならない」という思い込み。それが、気づかないうちに私の心と体を蝕んでいきました。
最初の異変は、慢性的な疲労感でした。朝起きても体が重く、一日中倦怠感が抜けない。集中力は落ち、以前は難なくこなせていた仕事も時間がかかるようになりました。頭痛やめまい、不眠にも悩まされるようになり、「これはおかしい」と感じるようにはなりましたが、「自営業なのだから、休んでいる暇はない」「私が倒れたらどうなるんだ」という焦りが勝り、見て見ぬふりを続けていました。
特に辛かったのは、過去の事業での挫折経験がフラッシュバックし、未来への不安が増幅されることでした。あの時の失敗を繰り返したくない。だから、今もっと頑張らなければ。そんな強迫観念に駆られ、さらに自分を追い込んでいきました。心は常に張り詰めており、些細なことでイライラしたり、落ち込んだり。感情の波が激しくなり、家族やごく親しい友人との関係にも影響が出始めた時、さすがに「このままでは本当に取り返しがつかなくなるかもしれない」と、漠然とした恐怖を感じ始めました。
体の声が上げた、悲鳴
決定的な転機が訪れたのは、ある朝、めまいで立ち上がれなくなった時でした。幸い大事には至りませんでしたが、体は明らかに「もう限界だ」と叫んでいました。これを機に、意を決して専門医を受診した結果、「慢性疲労症候群に近い状態」と診断されました。医師から言われたのは、「まずは休むこと。そして、これまでの働き方、生き方を見直すこと」という言葉でした。
その言葉は、私にとって大きな衝撃でした。休むことへの罪悪感、「私がいないと」という思い込み、そして「頑張り続けることこそが美徳」という固定観念が、いかに自分自身を苦しめていたかを痛感しました。
そこから、私の「再生」への道のりが始まりました。まずは、思い切って数週間、仕事を完全に休みました。最初は不安で仕方ありませんでしたが、休むことによって初めて、自分がどれほど心身ともに疲弊していたかを実感しました。そして、少しずつ体力が回復してくるにつれて、心の余裕も生まれ始めました。
次に着手したのは、自分自身を「労わる」ことでした。これまでの私は、自分の感情や体の声に耳を傾けることなく、ただひたすら走り続けていました。しかし、これからは意識的に「心地よい」と感じることを生活に取り入れました。毎朝の軽い散歩、静かな時間を作るための瞑想、質の良い睡眠を確保するための工夫。最初は抵抗がありましたが、続けていくうちに、心身が少しずつ穏やかになっていくのを感じました。
また、思考パターンを変える努力も始めました。「完璧でなくても大丈夫」「失敗してもやり直せる」「助けを求めてもいい」。これらの言葉を自分自身に語りかけ、長年の思い込みを解きほぐしていきました。信頼できる友人に正直な気持ちを打ち明けたことも、大きな助けとなりました。話を聞いてもらい、共感してもらうことで、一人ではないと感じることができたのです。
事業についても、考え方を変えました。これまでは「量」や「スピード」を重視していましたが、自分のペースを大切にし、「質」や「持続可能性」に焦点を当てるようにしました。すぐに全ての業務をスローダウンさせるのは難しかったため、徐々に、無理のない範囲で調整を加えていきました。すると不思議なことに、以前のように自分を追い立てなくても、仕事は回るということに気づきました。むしろ、心身に余裕ができたことで、より創造的に、そして効率的に仕事に取り組めるようになったのです。
経験が示す、新たな光
心身の不調を乗り越えた経験は、私に多くの学びを与えてくれました。何よりも大切なのは、自分自身の心と体の健康であるということ。そして、頑張り続けることだけが価値ではないということ。自分の弱さを受け入れ、助けを求める勇気を持つことの重要性。そして、過去の失敗や困難は、自分を責めるためではなく、未来をより良くするための学びとして活かせるということ。
現在、私の心身の状態は、診断を受けた頃に比べると格段に安定しています。もちろん、時々調子が優れない日もありますが、以前のように自分を追い詰めるのではなく、体の声に耳を傾け、必要な休息を取ることができるようになりました。事業も、以前のような無理な拡大路線ではなく、自分のペースで、顧客との関係性を大切にしながら継続できています。
この経験を通して、私は同じように心身の不調や、見えないプレッシャーに苦しむ方々の力になりたいと考えるようになりました。かつての私がそうであったように、一人で抱え込まず、立ち止まる勇気を持つこと、そして自分を労わることの大切さを、私の経験を交えて伝えていけたら、と思っています。
過去の困難は、私にとって避けては通れない道でした。しかし、そこから逃げずに、自分自身と向き合ったことで、心身の健康という何物にも代えがたい宝物と、新しい働き方、そして人生への希望を見つけることができました。もしあなたが今、見えないプレッシャーに苦しんでいるとしたら、どうか一人で抱え込まないでください。あなたの心と体は、あなたが思っている以上に大切な存在です。立ち止まり、自分を労わることから、再生の物語は始まります。