再生の物語たち

過去の自分と和解するまで。コンプレックスを「強み」に変え、拓いた新たな道。

Tags: コンプレックス, 自己肯定感, 過去のトラウマ, 心の再生, 共感力

「どうせ自分なんて」心の奥底に潜む声

私には、幼い頃からずっと抱え続けているコンプレックスがありました。「自分には特別な価値がないのではないか」「周りの人のようにうまくできない」という根深い自己否定感です。何か新しいことに挑戦しようとするたび、この「どうせ自分なんて」という声が心の中で響き、一歩を踏み出すことを躊躇させてきました。

特に事業を始めてからは、この内なる声が顕著に現れるようになりました。自分のサービスに自信が持てず、正当な対価を請求できなかったり、積極的に自己アピールすることができなかったり。お客様との信頼関係を築く上でも、どこか遠慮がちになり、自分の本心を伝えられないことも少なくありませんでした。

大きな失敗を経験した時、この自己否定感は一層強くなりました。「やはり自分には無理なのだ」と、コンプレックスが事実であるかのように感じられ、深い絶望感に苛まれました。過去の、誰かに否定された記憶や、うまくいかなかった経験がフラッシュバックすることもあり、自分自身の存在そのものが価値のないもののように思えて、息をするのも苦しくなるような日々でした。

転機となった「認めなくていい」という言葉

そんな状態が続く中で、ある時、信頼できる知人に思い切って胸の内を話してみました。自分のコンプレックス、事業での悩み、そして過去の辛い出来事について、涙ながらに語りました。その時、知人がかけてくれた言葉は、「コンプレックスを克服しようとしなくてもいい。認めなくていいよ」という意外なものでした。

それまでの私は、「コンプレックスを克服して、完璧な自分にならなければならない」と思い込んでいました。しかし、「認めなくていい」と言われたことで、肩の力がすっと抜けたのを感じました。完璧を目指すのではなく、今の自分、コンプレックスを抱えている自分を、ただ「そういうものだ」と受け入れてみよう、と少しだけ思えるようになったのです。

そこから、私は意識的に自分の「心の声」に耳を傾けるようになりました。ネガティブな感情が湧き上がった時、「あ、今、自己否定しているな」「コンプレックスを感じているな」と、客観的に観察する練習を始めたのです。ノートに書き出したり、信頼できる別の友人に話を聞いてもらったりする中で、自分の思考パターンや、コンプレックスの根源にある出来事を少しずつ理解していきました。

また、心理学や自己肯定感に関する本を読む中で、「完璧ではない自分」でいることの許可を少しずつ自分に与えられるようになっていきました。すぐに変化があったわけではありません。何度も立ち止まり、後戻りしたように感じる日もありました。それでも、「小さな一歩でもいいから、今の自分を否定せず、ただ受け止める」ということを根気強く続けました。

コンプレックスが、誰かの心に寄り添う力に

コンプレックスと向き合い、受け入れるプロセスを経て、私の中で大きな変化が生まれました。それは、コンプレックスを「乗り越えるべき弱点」ではなく、「自分という人間を形成する一部」として捉えられるようになったことです。そして、自分が深く悩んだ経験があるからこそ、同じように自己肯定感で悩んだり、過去の傷に苦しんだりしている人の気持ちが痛いほど分かるようになったのです。

以前は隠したかった自分の内面的な弱さが、他者の痛みに寄り添うための「共感力」という名の強みへと変わっていきました。事業においても、お客様の言葉の裏にある不安や、言葉にならない想いを以前より深く理解できるようになり、より真摯に向き合えるようになったと感じています。結果として、お客様との関係性は以前よりずっと豊かになり、事業も安定してきました。

完全にコンプレックスがなくなったわけではありません。今でもふとした瞬間に、昔のネガティブな感情が顔を出すことはあります。しかし、その度に「ああ、自分は今これをコンプレックスだと感じているんだな」と冷静に受け止め、「それでも大丈夫だ」と自分自身に優しく語りかけることができるようになりました。過去の辛い経験や、自己否定に苦しんだ日々は、今の私にとって、決して消し去りたいものではなく、むしろ私の人生を深くし、他者への貢献に繋がる大切な経験だったと心から思えるのです。

過去の自分も、今の自分も、そのままを受け入れる勇気

もし今、過去の経験や、心の中にあるコンプレックスに苦しんでいる方がいらっしゃるなら、伝えたいことがあります。それは、そのコンプレックスを無理に乗り越えようとしなくても良い、ということです。まずは、「自分にはこういうコンプレックスがあるんだな」と、ただその存在を認めてあげることから始めてみても良いのかもしれません。

過去の自分を否定せず、今の自分をそのまま受け入れること。それは決して簡単なことではありませんが、その一歩を踏み出す勇気が、私たちを「弱み」から「強み」へと繋がる新たな道へと導いてくれるのだと、私自身の経験を通して深く感じています。あなたの経験は、きっと誰かの希望になる力を持っています。