私の経験が誰かの力に。孤立感と向き合い、次世代と歩み始めた軌跡。
長年培った経験への違和感
私は自営業として長年、特定の分野で経験を積んでまいりました。事業を継続し、一定の成果を上げてくる中で、自身のスキルや知識には確かな自信を持っておりました。ところが、時代の変化と共に、特に若い世代の働き方や価値観、技術の進歩を目の当たりにするにつけ、「自分のやり方はもう通用しないのではないか」「これまでの経験は、もしかしたら足かせになるのではないか」という漠然とした不安を抱くようになりました。
かつては、経験こそが最大の強みだと信じて疑いませんでした。しかし、SNSの台頭や働き方の多様化など、自分たちが若い頃には想像もつかなかったスピードで社会が変化していく中で、自分が培ってきたものが、新しい波に乗れない古い価値観の一部になってしまったような感覚に襲われたのです。
次世代との距離、そして深まる孤立感
特に、若い世代の起業家や、新しい技術を駆使して活躍する人々を見るたび、彼らの発想の柔軟さやスピード感に圧倒されると同時に、「自分はもう彼らの世界にはついていけないのではないか」という疎外感を感じました。彼らとの会話の中で、共通の話題が見つからなかったり、自分の経験談が彼らにとって現実味のない昔話のように聞こえているのではないかと感じることもありました。
周囲を見渡すと、同世代の経営者はそれぞれの事業で忙しく、なかなか悩みを共有する機会もありません。家族に話しても、事業の専門的な部分までは理解してもらいにくい。そんな中で、自分の経験や知識が誰からも必要とされていないかのような、深い孤立感を抱くようになりました。まるで、積み上げてきたものが、自分だけの内に閉ざされてしまい、誰にも届かない、誰にも役立たない宝物になってしまったかのようでした。
事業自体は大きな問題なく継続できていましたが、このままでは時代に取り残されるのではないか、自身の内面的な停滞が事業にも悪影響を及ぼすのではないか、という危機感も募っていきました。そして何よりも、「自分はもう過去の人になってしまったのではないか」という寂しさが、心の中で大きな影を落としていたのです。
一つの問いかけがくれた転機
そんなある日、知人の紹介で参加した異業種交流会で、ある若い起業家の方と話す機会がありました。その方は、私の事業分野については初心者でしたが、非常に熱心に話を聞いてくれました。話の途中で、私がこれまでの経験の中で直面した具体的な失敗談や、それをどう乗り越えてきたかという話を、率直に質問されたのです。
その時、私は少し戸惑いました。自分の失敗談を話すことに抵抗があったわけではありませんが、まさか若い世代の方が、そんな過去の話に興味を持ってくれるとは思っていなかったからです。しかし、その方の真剣な眼差しに促され、当時の状況、感じていた不安、試行錯誤したプロセスなどを、少しずつ言葉にしていきました。
話し終えた時、その方がこう言ってくださったのです。「〇〇さんの経験談は、私にとってすごくリアルで学びになります。教科書には載っていない、生きた知恵ですね。特に、あの時の失敗から立ち直るまでの心の持ちようのお話は、今まさに壁にぶつかっている自分にとって、大きな勇気になります。」
この言葉を聞いた時、私の心の中で何かが音を立てて崩れ落ちるのを感じました。それは、「自分の経験は古い」「誰からも必要とされていない」という、私が抱えていた頑なな思い込みでした。私の経験は、形を変えれば、違う世代の人にとっても意味を持つ可能性があるのだと気づかされたのです。
経験を「教える」から「分かち合う」へ
この出来事をきっかけに、私は意識的に若い世代との交流の機会を持つようにしました。彼らの話を聞き、彼らが何に悩み、何を求めているのかを知ろうと努めました。そして、自分の経験を一方的に「教える」のではなく、「もしよろしければ、私の場合はこうでした」というように、「分かち合う」という姿勢を大切にしました。
当初はやはり、ジェネレーションギャップを感じることも少なくありませんでした。しかし、彼らの新しい発想や価値観に触れることは、私自身の凝り固まった考え方を柔軟にするきっかけにもなりました。また、彼らが私の経験から何かを得て、それを自身の状況に合わせて活用していく様子を見るのは、何とも言えない喜びでした。
ある時、以前話を聞いてくれた若い起業家の方から、事業の状況が好転したという報告と共に、「〇〇さんから頂いたアドバイスと、困難を乗り越える姿勢のお話が、本当に心の支えになりました」という感謝のメッセージをいただきました。このメッセージを読んだ時、私はこれまでの孤立感が嘘のように消え去り、心が温かい光に満たされるのを感じました。私の経験は、決して無駄ではなかった。むしろ、これからを生きる誰かの力になる可能性を秘めているのだと、確信を持つことができたのです。
再び繋がった世界、そして未来への希望
今、私は以前のような孤立感を感じることはありません。次世代との交流を通じて、私自身の学びも深まっています。彼らから新しい技術や知識を教わることもありますし、私自身の経験を伝えることで、彼らの成長を応援できることにも喜びを感じています。
私の事業においても、若い世代との交流から得られた新しい視点を取り入れることで、停滞していた部分に新しい風が吹き込み始めています。そして、私の経験を必要としてくれる人がいるという実感は、事業を継続し、さらに発展させていく上での大きなモチベーションとなっています。
過去の経験は、単なる過去の出来事ではありません。それは、困難を乗り越え、学びを得てきた軌跡であり、これからを生きる誰かにとっての希望の光となりうるものです。かつて私が感じていたような孤立感や、「自分の経験はもう役に立たないのではないか」という不安を抱えている方がいらっしゃるなら、どうかその経験を内側に閉じ込めないでください。あなたの経験は、必ず誰かの力になります。恐れずに、次世代と心を開いて関わってみてください。そこから生まれる繋がりは、あなたの世界を再び輝かせてくれるはずです。そして、その経験を分かち合うことは、あなた自身の新たな再生への一歩となるでしょう。
これからも私は、自身の学びを深めつつ、長年培ってきた経験を必要としてくれる方々に分かち合っていくことで、社会に貢献していきたいと考えております。自身の経験が誰かの希望の光となることを願いながら、次世代と共に、未来へと歩み続けてまいります。