介護と事業の両立、その苦悩を乗り越えて見つけた「自分時間」という光。経験が教えてくれた、人生の新たな豊かさ。
予期せぬ介護、事業との両立という現実
私の日常は、ある日突然始まりました。親の介護が必要になったのです。それまで、私は自営業として、自分のペースで仕事を進め、比較的自由な時間を過ごせていました。しかし、親の状態が悪化するにつれて、介護に費やす時間が増え、私の生活は激変しました。
朝、親の身の回りの世話を済ませてから仕事に取り掛かるものの、日中も容態が気になり、集中できません。夜間も呼び出しがあることもあり、睡眠不足が続きました。打ち合わせの時間も満足に取れなくなり、納期に遅れることも増え、クライアントにご迷惑をかけるたび、心苦しさでいっぱいになりました。
「事業も大切だけど、親のことも…」という葛藤が常に頭の中にあり、どちらに対しても十分な対応ができていないという罪悪感に苛まれました。友人から誘われても、外出する気力も時間もなく、徐々に孤立していきました。誰かに弱音を吐くこともできず、すべての負担を一人で抱え込んでいるような感覚でした。
限界を迎えた日々、そして微かな光
そんな日々が続き、心身ともに疲弊しきっていることに気づきながらも、立ち止まることが怖くて無理を重ねていました。しかし、ある朝、鏡に映った自分の顔を見て、そのあまりの疲れ果てた様子に衝撃を受けました。このままでは、親の介護も事業も、そして自分自身もダメになってしまうと、強く危機感を覚えたのです。
この時、初めて「一人で抱え込むのは限界だ」と認めざるを得ませんでした。そして、意を決して地域の包括支援センターに連絡を取りました。相談員の方は、私の話をじっと聞いてくださり、利用できる介護サービスや、地域の支援制度について丁寧に教えてくださいました。
これが、私にとって大きな転機となりました。それまで「親のことは自分がすべてやらなければ」という考えに縛られていましたが、専門家の方々の言葉や、様々な支援の存在を知ることで、「完璧を目指さなくても良い」「助けを求めて良い」ということに気づかされました。
「自分時間」を取り戻し、事業も再構築へ
包括支援センターの紹介でケアマネージャーさんと繋がり、親の状態に合わせた介護プランを立ててもらうことになりました。ヘルパーさんに来てもらう時間を確保することで、私は物理的に仕事をする時間を確保できるようになりました。
また、ケアマネージャーさんや相談員の方々との話の中で、私が最も必要としていたのは「自分自身のための時間」であることに気づかされました。ほんの短い時間でも、仕事や介護から離れて、自分が心からホッとできる時間を持つことの大切さを教えていただいたのです。
そこで、私は意識的に「自分時間」を作る努力を始めました。早朝に15分だけ好きな音楽を聴く、休憩時間にベランダに出て深呼吸をする、週に一度は近所のカフェでコーヒーを飲む。最初は「こんなことをしている場合ではない」という罪悪感がありましたが、不思議と心が落ち着き、仕事への集中力も増していきました。
事業についても、すべてを自分一人で抱え込むのをやめました。信頼できる外部のスタッフに一部の業務を委託したり、効率化ツールを導入したりと、思い切ってやり方を見直しました。また、介護の経験を通して得られた「傾聴力」や「臨機応変に対応する力」は、クライアントとのやり取りや、予期せぬ事態への対応に役立つことに気づき、事業の新しい方向性も見えてきました。
経験が教えてくれた、人生の新たな豊かさ
介護は現在も続いており、大変なことももちろんあります。しかし、かつてのような絶望的な気持ちで日々を過ごすことはなくなりました。介護サービスを利用すること、周囲に助けを求めること、そして何より「自分自身を大切にする時間」を持つことの重要性を、身をもって学んだからです。
困難な経験は、私に多くの気づきを与えてくれました。限られた時間の中で、何が本当に大切かを見極める力。完璧でなくても良いという心の余裕。そして、人との繋がりの温かさ。これらの学びは、事業を継続していく上でも、そして何より、人生を豊かに生きていく上でも、かけがえのない宝物となっています。
今後は、私自身の介護と事業の両立の経験を、同じように悩んでいる方々と分かち合い、少しでも力になれるような活動もしていきたいと考えています。あの苦悩の日々があったからこそ、今の穏やかな気持ちと、未来への希望があるのだと、心から感じています。
困難の中にいるあなたへ
もし今、あなたも一人で困難を抱え込み、先が見えず苦しんでいるとしたら。どうか、あなたの心と体を大切にしてください。そして、どうか助けを求めてください。完璧を目指す必要はありません。ほんの小さな一歩でも、誰かに話を聞いてもらうだけでも、状況はきっと変わり始めます。
あなたの経験は、必ず誰かの希望になります。そして、困難を乗り越えた先には、きっと想像もしていなかったような、新たな光と豊かな人生が待っています。