経験が足かせになった時。学び続ける姿勢で、停滞した事業に新たな風を吹き込んだ軌跡
過去の「成功」が、いつしか重荷になった時
私が営む事業は、立ち上げ当初から順調な滑り出しを見せ、それなりに成功を収めることができました。長年培ってきた経験と直感を頼りに、同じやり方を続けていれば、この安定は続くだろう。そう信じて疑いませんでした。新しいことへの挑戦よりも、慣れた方法で効率よく回すことを優先していたのです。
しかし、時代の波は私が想像していた以上に速く、そして大きく変わっていきました。特にデジタル化の波は、私の事業を取り巻く環境を劇的に変化させていったのです。周りの同業者たちが次々と新しいシステムを取り入れたり、オンラインでの販路を拡大したりするのを横目に、「自分には関係ない」「今までのやり方で十分だ」と、内心では変化を避けようとしていました。
時代の変化に取り残される焦燥感と、過去にしがみつく自分
正直に申し上げますと、新しい技術を学ぶことに苦手意識がありました。慣れないパソコン操作や専門用語に触れると、頭が真っ白になるような感覚に襲われ、自然と敬遠してしまっていたのです。
そんな私とは裏腹に、世の中はどんどん便利になっていきます。顧客からの問い合わせ方法、情報の収集源、競合との差別化のポイント。どれをとっても、かつての成功体験だけでは通用しなくなっていることを肌で感じる機会が増えてきました。
売上は徐々に落ち込み始め、新規顧客の獲得も難しくなりました。かつての成功体験が、まるで足かせのように、新しい一歩を踏み出す勇気を奪っているように感じられました。「なぜ、あの頃のようにうまくいかないのだろう」。過去の栄光と現在の停滞を比べ、自分自身を責める日々が続きました。心の中には、取り残されることへの焦燥感と、変われない自分への苛立ちが募っていきました。しかし、それでも具体的な行動に移すことができず、「どうせ自分には無理だ」という諦めにも似た感情が支配的になっていったのです。
小さな一歩が繋いだ、学びへの扉
転機が訪れたのは、ある顧客からの何気ない一言でした。「〇〇さん(競合)は、オンラインで簡単に予約できるから便利なんですよね」。その言葉は、私の心にグサリと刺さりました。もう、「今までのやり方で十分」では済まされない。このままでは、事業だけでなく、私の人生そのものが立ち行かなくなるかもしれない。強い危機感を感じました。
勇気を出して、まずは身近なところから学びを始めることにしました。幸い、商工会議所が主催するIT活用セミナーが開催されることを知り、「これなら自分でも参加できるかもしれない」と、重い腰を上げて申し込みました。
セミナー会場では、私よりもずっと若い方々が、当たり前のようにデジタルツールを使いこなしている様子に、最初は圧倒されました。しかし、講師の方が一つ一つ丁寧に教えてくださり、参加者同士で助け合う雰囲気の中で、少しずつですが理解できることが増えていったのです。
最初は戸惑いと恥ずかしさでいっぱいでしたが、「分からないのは当たり前だ」「完璧でなくていい」と自分に言い聞かせ、できることから少しずつ取り組んでみました。オンラインでの情報発信、簡単なツールの導入、そしてお客様とのコミュニケーション方法の見直し。一つクリアするごとに、小さな達成感と自信が芽生えていきました。
学びがもたらした事業の再生と、自分自身の変化
変化を恐れず、一歩踏み出したことで、私の事業は少しずつ息を吹き返していきました。オンラインからの問い合わせが増え、新しい客層との繋がりも生まれました。業務効率も改善され、時間に追われることも減りました。
何よりも大きかったのは、私自身の内面の変化です。新しいことを学ぶことへの抵抗感がなくなり、むしろ知的好奇心が刺激されるようになりました。できないことを恥じるのではなく、「できるようになるための伸びしろ」だと捉えられるようになったのです。過去の経験は、新しい知識や技術と組み合わせることで、より強い力になることを実感しました。
かつての私は、過去の成功体験にしがみつき、変化を恐れるあまり、自分で自分の可能性を閉ざしていました。しかし、学び続ける姿勢を持つことで、停滞していた事業だけでなく、自分自身の心にも新たな風を吹き込むことができたと感じています。
過去は未来を創る力になる
困難から得た学びは、計り知れません。変化を恐れず、一歩踏み出す勇気。完璧を目指さず、小さな成功を積み重ねること。そして何より、学び続けることの楽しさ。これらは、事業を継続・発展させていく上で、そして自分自身が成長していく上で、かけがえのない財産となりました。
もし今、過去の経験が足かせになっていると感じている方、時代の変化についていけず焦りや不安を感じている方がいらっしゃるなら、大丈夫だとお伝えしたいです。過去の経験は決して無駄にはなりません。それは、新しい知識や視点を加えることで、必ず未来を創る力となります。
大切なのは、自分自身を否定せず、学び続ける姿勢を持つことです。完璧である必要はありません。小さな一歩から始めてみてください。その一歩が、きっと新たな希望へと繋がっていくはずです。