期待という名の重圧に押しつぶされそうになった過去。本当の価値を見出し、自分らしい事業を築くまで。
常に「期待に応える自分」であろうとしていた日々
私はこれまで、人からどう見られるか、どう評価されるかを常に意識して生きてきました。特に事業を始めてからは、「期待される経営者」であろうと、あらゆる要望に応えようと必死でした。「できない」と言うことは、自分の能力不足を露呈することのように感じられ、不安と恐れから無理な納期や条件も受け入れていました。
事業は一時的に順調に見えましたが、内面では常に息苦しさを感じていました。お客様や取引先からの期待に応えることが自己肯定感を保つ唯一の方法になっているかのようでした。完璧な自分でなければ価値がない、という見えない鎖に縛られていたのです。
心身が発したSOS
そんな状態が何年も続いたある日、体が言うことを聞かなくなりました。突然のめまい、止まらない動悸、夜も眠れず、起き上がることさえ億劫になる日が続きました。病院で診断されたのは、重度の疲労とストレスによる自律神経の失調でした。「このままでは危険です」という医師の言葉は、まるで他人事のように聞こえましたが、同時に、張り詰めていた糸がぷつりと切れるような感覚でもありました。
事業を続けるどころか、日常生活さえままならない状況になり、初めて「このままでは自分が壊れてしまう」という現実を突きつけられました。期待に応えること、評価されることばかりに囚われ、自分自身の心身の声に全く耳を傾けていなかったのです。その時、これまでの「頑張り」は、自分を大切にしない自己犠牲に過ぎなかったのだと気づき、深い絶望感に襲われました。事業を失うかもしれない、人からの評価も失うかもしれない、そんな不安が押し寄せました。
限界からの気づき、そして新たな一歩
休養を余儀なくされた期間は、強制的に立ち止まる時間となりました。これまでは常に「〜しなければならない」という考えに支配されていましたが、何もできない中で、自分にとって何が本当に大切なのかを問い直す機会が生まれました。
その中で見えてきたのは、誰かの期待に応えるためではなく、「自分が心から良いと思えるものを提供する」ことこそが、事業の、そして自分自身の本当の価値ではないか、ということでした。評価軸を外に置くのではなく、自分の内側、つまり「自分軸」で事業を見つめ直す決意が固まりました。
幸い、理解ある顧客や取引先にも恵まれ、状況を正直に説明し、納期や条件の見直しをお願いしました。完璧に対応できない自分を見せることへの恐れはありましたが、不思議と多くの方が温かく受け入れてくださったのです。そして、無理をせず、自分の得意なこと、本当に価値提供できることに焦点を絞ることで、事業の質はむしろ向上しました。
このプロセスで最も大きな学びは、弱さを見せること、助けを求めることは恥ずかしいことではなく、むしろ人間関係をより深く、信頼できるものに変える力があるということでした。また、自分を大切にすることが、結果として事業を継続し、より良くしていく上で不可欠であるということを痛感しました。
自分らしい事業と、これからの道のり
心身の回復とともに、事業も新たな方向へと進み始めました。規模を追うのではなく、自分が本当に情熱を傾けられる分野に特化し、顧客との関係性も量より質を重視するようになりました。以前のような、他者の期待に振り回されることはもうありません。もちろん、責任をもって仕事に取り組むことには変わりありませんが、今は自分の中にある「これが良い」という確信を大切にしています。
過去の経験は、私に多くのものを教えてくれました。他者の期待に応えようと必死だった時期があったからこそ、自分を大切にすることの尊さ、自分らしい価値を見出すことの重要性を深く理解できたのだと思います。そして、困難な時に正直になる勇気や、助けを求めることの大切さも学びました。
この経験を活かし、今後は同じように「ねばならない」という重圧や、他者の期待に苦しんでいる人がいたら、その方が自分自身の価値に気づき、自分らしい一歩を踏み出せるようなサポートもしていきたいと考えています。
読者の皆様へ
もし今、あなたが誰かの期待や評価に苦しみ、自分を見失いそうになっているなら、一度立ち止まって、ご自身の心と体に耳を傾けてみてください。完璧な自分でいなくても、あなたは十分に価値のある存在です。弱さを見せることは、新たな繋がりを生む勇気ある一歩かもしれません。
過去の困難は、きっとあなた自身の本当の価値を見つけるための、そして自分らしい人生を歩むための、大切な学びと気づきを与えてくれるはずです。希望は、自分を大切にすることから生まれるのだと、私の経験は教えてくれました。