周囲の成功に焦った過去。比較を手放し、自分らしいペースで事業を再生した軌跡。
周囲の輝きに、自分を重ねて見失った日々
私が自営業を始めて数年が経ち、事業も少しずつ軌道に乗り始めた頃のことでした。SNSを開けば、同業者の派手な成功談が目に飛び込んできます。「売上〇倍達成」「新店舗オープン」「海外進出」といった華やかな投稿を目にするたびに、胸がざわつき、落ち着かない気持ちになりました。リアルで会う知人からも、次々と事業拡大の話を聞かされ、「すごいね！」「順調そうで何より！」と声をかけられるたび、内心では「それに比べて自分は…」と、焦燥感が募っていきました。
「このままでは置いていかれる」「もっと早く、もっと大きく成長しなければ」という強迫観念に囚われ、無理な投資計画を立てたり、自分の専門外の分野に手を広げようとしたりしました。周囲の「成功」という基準に合わせようと必死にもがいていたのです。しかし、それは私にとって、本来大切にしていたお客様との丁寧な向き合い方や、提供したいサービスの質を疎かにすることに繋がりかねない危うい方向性でした。
特に辛かったのは、過去の失敗経験がフラッシュバックすることでした。過去にも、誰かとの比較から焦り、見込みのない事業に手を出して大きな損失を出した経験があったのです。「また同じ失敗を繰り返すのではないか」「自分には、着実に成長していく能力がないのではないか」という自己否定の感情が沸き上がり、夜眠れない日が増えました。周囲の輝きが、私自身の価値のなさを突きつけているように感じられ、孤独で、息苦しい日々でした。
立ち止まる勇気と、本当の「成功」への気づき
そんな状況の中、ある日、無理がたたって体調を崩してしまいました。医師から「少し休んだ方がいい」と言われたとき、初めて強制的に立ち止まらざるを得なくなりました。静かな時間の中で、私は問いかけました。「一体、誰のための事業なのだろう？」「何を目指して、こんなに焦っているのだろう？」
そこで気づいたのは、私が追い求めていたのは、自分自身の「こうありたい姿」ではなく、周囲が作り出す「成功」のイメージだったということです。SNSの煌びやかな投稿や、知人の華々しい話は、その人の一面にすぎません。そして、それぞれの事業には、それぞれの形やペースがあるのだという当たり前のことに、ようやく気が付いたのです。
この気づきをきっかけに、私は無理な拡大路線から方向転換をしました。まず、信頼できる古くからの友人（同じように自営業を営んでいる）に、正直な胸の内を話しました。彼の「焦る気持ちはわかるけど、あなたにしかできないこと、あなただから価値があることって絶対にあるよ」という言葉に、張り詰めていた心が少し緩んだのを覚えています。
次に、自分の事業の核となる部分、つまり「なぜこの事業を始めたのか」「お客様に何を提供したいのか」を改めて見つめ直しました。提供するサービスの質を向上させること、既存のお客様との関係性を深めることに注力すること。そして、数字だけではない、お客様からの感謝の言葉や、自分が心から楽しいと思える瞬間を大切にすること。これらが、私にとっての本当の価値であり、事業の土台であると再確認しました。
また、焦りを感じる原因の一つだった、他者との比較を意識的にやめました。SNSを見る時間を減らし、自分自身の成長に焦点を当てるようにしました。今日の自分は昨日より少しでも前に進めたか？ お客様は満足してくださっているか？ こうした小さな問いかけを大切にすることで、少しずつ自己肯定感を取り戻していきました。
自分らしい輝きと、未来へのゆるやかな歩み
周囲との比較を手放し、自分自身のペースで事業を進めるようになってから、驚くほど心が穏やかになりました。劇的な売上増加はありませんでしたが、お客様からの信頼は深まり、リピート率も向上しました。何よりも、仕事に対して再びやりがいと喜びを感じられるようになったのです。
現在、私の事業は急成長とは言えないかもしれませんが、安定して継続できています。そして、過去の焦りや失敗、そしてそこから立ち直った経験は、私にとってかけがえのない財産となりました。「比較しても意味がないこと」「自分のペースで着実に進むことの大切さ」といった学びは、事業だけでなく、人生そのものにおいて、私の心の羅針盤となっています。
今、私は無理のない範囲で、かつて自分が苦しんだような「周囲との比較による焦り」や「自己否定」に悩む自営業の方たちの話を聞く活動を始めています。私の経験が、誰かが自分らしいペースを見つけるための小さな光になれば、これほど嬉しいことはありません。
困難を乗り越える方法は一つではありません。派手な成功だけが「再生」の形ではないのです。立ち止まる勇気を持ち、自分の心の声に耳を澄ませること。そして、自分にとって本当に大切な価値を見失わないこと。それが、自分らしい輝きを見つけ、ゆるやかに、しかし確かに未来へ歩みを進める力になると、私は信じています。